東京地方裁判所 昭和48年(モ)19998号 判決 1973年8月16日
債権者
石田和寿
右訴訟代理人
磯崎良誉
外一名
債務者
石田ヤイ
右訴訟代理人
岡田金吾
主文
債権者と債務者との間の東京地方裁判所昭和四六年(ヨ)第七三四〇号通行妨害禁止仮処分申請事件について、当裁判所が昭和四六年一一月九日になした仮処分決定は、これを認可する。
訴訟費用は、債務者の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 債権者
主文第一項同旨。
二 債務者
主文第一項掲記の仮処分決定を取消す。
本件仮処分申請を却下する。
訴訟費用は、債権者の負担とする。
第二 当事者の主張
一 申請の理由
(一) 争いある権利関係
1 東京都豊島区駒込六丁目(以下、地番ないしその枝番をいうときは、すべて同所々在のものをいう)八三五番四宅地約2062.80平方メートル(六二四坪、以下「当初の八三五番四の土地」という)は、昭和二二年三月二四日当時申請外永田武および同石田克夫の共有であつたが、昭和二三年六月二五日申請外古川さくが当時八才であつた石田克夫の親権者(母)であつてその法定代理人であつた債務者から右土地についての石田克夫の共有持分全部を買受けたので、右土地は永田武および古川さくの両名の共有となつた。次いで、同年八月一六日、右両名による右土地の分割が行われ、これにより、永田武が分割後の八三五番四の土地この面積約1178.18平方メートル(356.4坪、以下「旧々八三五番四の土地」という)の、古川さくが分割後の同番五の土地この面積約884.62平方メートル(267.6坪、以下「旧々八三五番五の土地」という)の各単独所有者となつた。その後古川さくは、昭和二六年一〇月二五日、旧々八三五番五の土地から現在の八三五番六の土地この面積約322.31平方メートル(97.5坪)を分筆のうえ、これを申請外石塚某に売却し、同時に右分筆後の旧々八三五番五の土地の残部この面積約562.31平方メートル(170.1坪、以下「旧八三五番五の土地」という)を債権者に売渡し、これによつて債権者は、旧八三五番五の土地の所有権を取得した。
2 債権者は、昭和二六年一〇月二五日、旧八三五番五の土地を古川さくから買受けた際、古川さくの夫である申請外古川泰章を債権者の代理人として当時旧々八三五番四の土地の所有者であつた永田武との間で、旧八三五番五の土地を要役地とし、旧々八三五番四の土地のうち別紙図面においてイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、イの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分に相当する土地(以下「本件私道部分」という)を承役地として、債権者が右承役地を右要役地から公道に出たり、公道から右要役地に入つたりする際に通行の用に供するための通行地役権設定契約(以下、本件通行地役権設定契約という)を締結した。これによつて債権者は、本件私道部分について通行地役権を取得した。
3 債権者は、昭和二七年一〇月二日、旧八三五番五の土地を現在の同番五の土地この面積214.64平方メートル(64.93坪、以下「戊地」という)、同番七の土地この面積183.60平方メートル(55.54坪、以下「丙地」という)および同番八の土地この面積164.06平方メートル(49.63坪、以下「丁地」という)の三筆に分筆し、このうち丁地は昭和二八年一月二二日に申請外金森幸夫に売却した。丙地および戊地は現に債権者が所有している。
他方、永田武は、昭和三七年一一月二五日、旧々八三五番四の土地から現在の同番一〇の土地この面積145.55平方メートル(44.03坪、以下「乙地」という)を分離した。これにより、本件私道部分のうち別紙図面においてロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ロの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分に相当する部分(以下「乙'部分」という)は乙地の一部となつた。なお、永田武は、その後右分筆後の同番四の土地この面積約1032.62平方メートル(312.37坪、以下「旧八三五番四の土地」という)から現在の同番一一の土地を分筆し、その結果、同番四の土地の面積は、767.72平方メートル(232.24坪)となつた(以下現在の八三五番四の土地を「甲地」という)。
4 以上の事実関係に基づき債権者は、丙地および戊地を要役地とし、乙地のうちの乙'部分を承役地として、これを右要役地のために通行の用に供することを内容とする地役権を有するものである。
(二) 保全の必要性
債権者の妻石田波子は、昭和四六年九月丙地および戊地上のその所有の各建物の増築を計画し、その建築確認を得たところ、債務者は、同年一〇月六日、債権者に対し内容証明郵便で乙'部分の通行を拒絶する旨通告してきた。債務者は、右通告後、債権者らの乙'部分の通行を阻止しようとしいる。これに対し、債権者は、債務者を被告として東京地方裁判所に対し乙'部分の通行妨害禁止等を求める訴(同庁昭和四七年(ワ)第八五八号事件)を提起したが、本案の勝訴判決が確定し、債権者が乙'部分の通行を確保するには相当の日数を要し、その間、債務者に乙'部分の通行を妨害されるときは、丙地上の建物の前記増築工事ならびに債権者、その家族および戊地上のアパートの居住者の日常生活は、多大の不便と不安を余儀なくされる。
(三) 本件仮処分決定
そこで債権者は、昭和四六年一一月八日、東京地方裁判所に対し、乙'部分につき債務者による通行妨害の禁止を求める仮処分申請したところ、これによる同庁昭和四六年(ヨ)第七三四〇号事件において、同裁判所は債権者に金一五万円の保証を立てさせたうえ、翌九日、「債務者は、債権者が乙'部分を通行することを妨害してはならない。」旨の仮処分決定(以下「本件仮処分決定」という)を発した。本件仮処分決定は、相当であるから認可されるべきである。
二 申請の理由に対する答弁
(一)1 申請の理由(一)の1のうち、昭和二二年三月二四日当時債権者主張の当初の八三五番四の土地が永田武および石田克夫の両名の共有であつたこと、石田克夫の親権者(母)でその法定代理人であつた債務者が昭和二三年六月二五日右土地についての石田克夫の持分(但しその一部)を古川さくに売渡したこと、同年八月一六日右土地が分割されたこと、これによつて古川さくが旧々八三五番五の土地の単独所有者となつたこと、古川さくがその所有の右土地を債権者主張の日に、その主張のように分筆し、これによつて生じた八三五番六の土地を石塚某に、旧八三五番五の土地を債権者にそれぞれ売渡したことはいずれも認めるが、その余は否認する。
2 同(一)の2の事実は知らない。
3 同(一)の3の事実は認める。
4 同(一)の4は争う。
(二) 申請の理由(二)の事実のうち、債権者の妻石田波子が債権者主張のとおり、その主張の各建物の増築工事を計画し、その建築確認を得たこと、債務者が債権者主張の日に債権者に対して乙'部分の通行を拒絶する旨通告したことは、いずれも認めるが、その余は否認する。
債権者所有の戊地の南側は、7.9メートルにわたつて幅員六メートルの公道に接しており、また、戊地内には2.5ないし4.3メートルの通路が設けられて(別紙図面参照)、本件私道部分を通行しなくとも戊地および丙地から公道に出られるから、債権者方では、日常生活上も右各土地上の建物を増築するためにも本件私道部分を通行する必要はない。他方、債務者は、債権者に対し乙'部分を通行することを容認すると、債権者およびその家族ならびに債権者主張のアパートの居住者は勿論のこと、外部の者までたやすく乙'部分に立入ることが可能となり、その結果、債務者および甲地内の居住者らが盗難や火災にあう危険が増大するほか、債務者が近い将来に行うことを計画している乙地上の建物の増改築に乙'部分(34.73平方メートル)を建物敷地として利用することができなくなるという重大な損害を被ることになる。
三 抗弁(申請の理由1に対し)
(一) 当初の八三五番四の土地は、①旧々八三五番四の土地(現在の甲地、乙地および八三五番一一の土地を合わせた部分)この面積約1178.18平方メートル(356.4坪)と、②旧々八三五番五の土地(現在の丙地、丁地、戊地および八三五番六の土地を合わせた部分)この面積約884.62平方メートル(267.6坪)とからなる合計約2062.80平方メートル(六二四坪)の土地であつたが、債務者は、昭和二三年六月二五日、石田克夫の法定代理人として古川さくに対して、右の土地に対する二分の一の持分すなわち六二四分の三一二の持分のうち、六二四分の267.6の持分を譲渡し、その余の六二四分の44.4の持分を石田克夫に留保した。これにより当初の八三五番四の土地は永田武、石田克夫、古川さくの三名の共有となつた。同年八月一六日、右共有者三名(石田克夫については債務者が法定代理人として同人を代理)は、当初の八三五番四の土地の分割を行なつた。その結果、右②の部分、すなわち旧々八三五番五の土地にあたる部分が古川さくの所有となつたことは前述のとおりであるが、右①の部分、すなわち旧々八三五番四の土地にあたる部分については、そのうちの現在の乙地にあたる部分が石田克夫の所有となり、その余の部分が永田武の所有となつた。
右のとおりであるから、かりに債権者が昭和二六年一〇月二五日に永田武との間に本件通行地役権設定契約を締結したとしても、当時旧々八三五番四の土地のうち現在の乙地にあたる部分については、永田武は既に持分権を喪失し、石田克夫がその所有者となつていたものであるから、右契約のうち乙'部分に関する部分は、承役地につきなんらの権利を有しない者の締結したものとして無効である。
(二) かりに、当初の八三五番四の土地についての前記分納のうち、旧々八三五番四の土地にあたる部分についての永田武と石田克夫との間のそれが、本件通行地役権設定契約締結当時これを債権者に対抗し得ないものであつたとしても、右の当時旧々八三五番四の土地は、第三者に対する関係では全体として右両名の共有であつたものである。したがつて、右土地の共有者の一人に過ぎない永田武は右共有地の一部を承役地とする右契約を締結し得る権限はこれを有しなかつたものである。それ故、右契約は無効である。
(三) 債務者は、昭和三七年一一月二五日、当時既は成年に達していた石田克夫から乙地の贈与を受け、その所有者となつた。それ故、かりに前項の主張が理由がないとしても、債務者は債権者のための本件通行地役権設定登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者である。したがつて、債権者は債務者に対し、乙'部分についての通行地役権の取得を対抗し得ない。
なお、後記の抗弁に対する答弁(三)後段冒頭の事実は否認する。同(1)の事実も否認する。同(2)の事実のうち債権者主張の各土地上の各建物がその主張のとおり建築されたことは認めるが、債権者およびその家族ならびに債権者主張のアパートの居住者らが乙'部分を通行していたことは否認する。同(3)の事実のうち、債務者が昭和二八年八月ころから現在の乙地にあたる部分上に建物は建て、爾来これに居住していることおよび永田武が債務者の実兄であることは認めるが、その余は否認する。同(4)の事実は認める。しかし、債権者に対する乙'部分の通行拒絶は他意あるわけではない。金森幸夫と宮田幸吉は本件私道部分を通行しなければ公道に出られないためその通行を認めているにすぎない。同(5)の事実のうち、甲地のうち本件私道部分のうちの甲'部分を含む債権者主張の部分について幅員四メートルの私道として東京都知事の道路位置指定がなされていることは認めるが、永田武が債権者主張のときに債権者に対しその主張のような説明をしたことは知らない。
四 抗弁に対する答弁
(一) 抗弁(一)前段の事実中、当初の八三五番四の土地が債務者主張のとおりであつたことは認めるが、その余の事実(但し、債権者が申請の理由で主張の事実と一致している部分を除く)は否認する。
抗弁(一)後段は争う。かりに、当初の八三五番四の土地の分割が債務者主張のとおりに行われたとしても、右分割において、旧々八三五番四の土地にあたる部分を債務者主張のように石田克夫と永田武との間に分割したことについては、本件通行地役権設定契約締結当時、その登記が未了であつたから、右分割によつて現在の乙地にあたる部分が石田克夫の単独所有となり、永田武はこれについてなんらの権利を有しなくなつていたとはいえない。
(二) 抗弁(二)は争う。石田克夫は、昭和二三年六月二五日に当初の八三五番四の土地についての自己の持分を古川さくに譲渡して以降、右土地につき、また、同二三年八月一六日に右土地の分割が行われて以降旧々八三五番四の土地につき、その持分についての登記を有しなかつた。したがつて、本件通行地役権設定契約締結当時、旧々八三五番四の土地がかりに永田武と石田克夫の共有であつたとしても、石田克夫は右土地の共有者の一人たることを債権者に対抗し得なかつたものであり、したがつて永田武が右契約締結の権限を有しなかつたものとはいえない。
(三) 抗弁(三)の事実は否認する。債務者は昭和三七年一一月二五日に乙地を永田武から贈与を受けたものである。
債務者が石田克夫または永田武のいずれから乙地の贈与を受けたにせよ、次に述べるような事情があるから、債務者は、債権者が乙地のうちの乙'部分につき通行地役権を有することについて、背信的悪意をもつて乙地の所有権を取得したものというべきであり、債権者のための本件通行地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する第三者にはあたらない。
(1) 本件私道部分は、昭和二二年ころから私道敷として通行の用に供されていた。
(2) 債権者が昭和二六年一〇月旧八三五番五の土地の所有者となり、本件私道部分に通行地役権を取得した後の昭和二七年一〇月ころ、債権者の妻である石田波子は、右土地の南側部分(現在の戊地)の上に居宅一棟を建築したが、その際、別紙図面において(い)、(ろ)にあたる二か所に出入口を設けたので、それ以降債権者およびその家族はここを出入りして乙'部分を含む本件私道部分を通行していた。石田波子は、昭和三〇年九月右建物を増築してアパートとして他に賃貸し、昭和三六年一月丙地上に居宅一棟を建築してこれを債権者およびその家族の住居として使用し、その際、右図面において(は)にあたる個所に門扉を設けたので、それ以降債権者およびその家族ならびに右アパートの居住者は、引続き乙'部分を含む本件私道部分を通行の用に供し、現在に至つている。
(3) 債務者は、昭和二八年八月ころより現在の乙地上の建物に居住しているが、右(1)、(2)の各事実を知りながら昭和三七年一一月二五日その実兄である永田武から乙地を無償で譲受け、現在に至るまで実に一九年以上も債権者らによる乙'部分の通行を容認してきている。
(4) 債務者は、乙'部分について、債権者の通行のみを拒絶し、丁地の所有者である金森幸夫および甲地のうち乙地の東側部分の賃借人である宮田幸吉には通行を許している。
(5) 甲地のうち別紙図面においてリ、ヌ、ロ、ヘ、ト、チ、イ、リの各点を順次終ぶ直線で囲まれた部分にあたる部分(この部分の中には、本件私道部分のうち別紙図面においてイ、ロ、ヘ、ト、チ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分―以下、「甲'部分」という―が含まれる)は、幅員四メートルの私道として東京都知事の道路位置指定がなされているが、乙'部分にはその指定がなされていない。しかし、債権者は、旧八三五番五の土地を古川さくから買受けるに際し、前記古川泰章を代理人として旧々八三五番四の土地の所有者であつた永田武に対し本件私道部分の通行をすることにつき承諾を求めたところ、同人は、債権者に対し、その承諾をするとともに乙'部分を含む本件私道部分について東京都知事に対し道路位置指定の申請をしているので債権者が将来にわたつて右通行が可能である旨説明した。それで、債権者は、右説明を信頼し本件通行地役権設定の登記手続をしなかつたのである。
五 再抗弁
(一) 抗弁(二)に対して
1 永田武は、本件通行地役権設定契約の締結につき、石田克夫の法定代理人であつた債務者の同意を得たものである。
2 かりにしからずとしても、債務者は、石田克夫の法定代理人として当初の八三五番四の土地の分割に因つて永田武と石田克夫の共有となつた旧々八三五番四の土地を永田武の単独所有名義に登記しておいた。すなわち、石田克夫の法定代理人であつた債務者は、永田武と通謀のうえ旧々八三五番四の土地につき永田武の単独所有名義に虚構の登記をした。
その後、債権者の代理人古川泰章は、右登記に因り、旧々八三五番四の土地全部が真実永田武の単独所有であると信じて同人との間に本件通行地役権設定契約を締結したものである。そうだとすると石田克夫は勿論同人から乙地の所有権を承継したと称する債務者も民法第九四条二項の類推適用により、右契約締結当時永田武が乙地にあたる部分を含む旧々八三五番四の土地につき持分権しか有せず、完全な所有権は有しなかつたことをもつて債権者に対抗することはできないものというべきである。
(二) 抗弁(三)に対して
かりに、債務者が石田克夫からその主張のとおり乙地の贈与を受けたとしても、抗弁に対する答弁(三)の後段で述べたような事情および再抗弁(一)の2の前段で述べたような事情のあることからすれば、債務者は債権者のための通行地役権設定登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者であると債務者が主張することは、信義則に反するものであつて許されないものというべきである。
六 再抗弁に対する答弁
再抗弁(一)の1の事実は否認する。同2の事実中、当初の八三五番四の土地が分割されて生じた旧々八三五番四の土地が永田武の単独所有名義に登記されたことは認めるが、その余は否認する。
再抗弁(二)は争う。申請の理由に対する答弁(二)後下段に述べたような事実があることからしても、債務者が抗弁(三)のように主張することは毫も信義則に反するものではない。
第三 疏明関係<略>
理由
一争いある権利関係について
(一) 債権者主張の当初の八三五番四の土地が昭和二二年三月二四日当時永田武および石田克夫の両名の共有であつたこと、石田克夫の親権者(母)でその法定代理人であつた債務者が昭和二三年六月二五日右土地についての石田克夫の持分(但しその全部か一部かの点はしばらく措く)を古川さくに売渡したこと、同年八月一六日右土地が分割されこれによつて古川さくが旧々八三五番五の土地の単独所有者となつたこと、同人が、昭和二六年一〇月二五日、右土地から現在の八三五番六の土地を分筆してこれを石塚某に売渡し、右分筆後の残部すなわち旧八三五番五の土地を債権者に売渡したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
(二) <証拠>を総合すると、債権者は、昭和二六年一〇月ころ、古川さくから旧八三五番五の土地を買受けるに際し、同人の夫であり、かつ永田武の伯父でもある古川泰章に対して、本件私道部分の所有者から、その通行についての承諾をしてもらうよう依頼したところ、古川泰章は、本件私道部分(但し幅員九尺と表示)を旧八三五番五の土地の居住者が共同通路として使用することを承諾する旨の記載ある債権者宛の昭和二六年一〇月二五日付の承諾書と題する書面に、その作成者として、旧々八三五番四の土地の所有名義人である永田武に署名捺印をしてもらつて、これ(甲第一五号証)を債権者に持参したことが認められる。右事実によれば、債権者は古川泰章を代理人として、右書面の作成日付の日に永田武との間で、本件通行地役権設定契約すなわち旧八三五番五の土地を要役地とし、旧々八三五番四の土地のうち本件私道部分を承役地として、債権者および右要役地居住者が右承役地を右要役地から公道に出たり、公道から右要役地に入つたりするために通行の用に供することを内容とする地役権をを設定する旨の契約を締結したものと認められる。
(三) 申請の理由(一)の3の事実(旧八三五番五の土地の分割とこれによつて生じた丙地、戊地および丁地の所有関係ならびに旧々八三五番四の土地および旧八三五番四の土地の各分筆と本件私道部分のうちの乙'部分が乙地の一部となつた関係)は当事者間に争いがない。
(四) そこで、債務者の抗弁について、順次検討する。
1 抗弁(一)について
(1) <証拠>によれば、当初の八三五番四の土地この面積約2062.80平方メートル(六二四坪)は昭和一六年一二月一八日当時債務者の実兄である永田武(同人が債務者の実兄であることは当事者間に争いがない)と債務者の夫である亡石田淳道の共有であつたところ、石田淳道の共有持分は、昭和一七年六月一七日石田麻佐母(亡石田淳道と債務者との間の長男)に、次いで、昭和二二年三月二四日石田克夫(亡石田淳道と債務者との間の二男)にそれぞれ家督相続された結果、右土地は永田武と石田克夫の両名の共有となつたものであること、債務者は、昭和二〇年石田克夫ら家族とともに東京から郷里の福島県に疎開し、それ以来右土地の管理を永田武に委ねていたこと、前述のとおり昭和二三年六月債務者が石田克夫の法定代理人として右土地についての石田克夫の共有持分(その全部か一部かの点はしばらく措く)を古川さくに譲渡することになつたのは、永田武の勧めによるものであつたこと、右譲渡の際、債務者は、永田武に対し、石田克夫のために、当初の八三五番四の土地のうち、四〇坪ないし五〇坪は、売らないで残しておいてほしいと述べたこと、そして、同年八月一六日、右土地についての分割がなされた結果、旧々八三五番五に相当する部分この面積約884.62平方メートル(267.6坪、これは当初の八三五番四の土地面積の六二四分の267.6に相当する)が古川さくの単独所有となり、旧々八三五番五の土地として同人名義に登記され、旧々八三五番四の土地に相当する部分この面積約1178.18平方メートル(356.4坪、これは当初の八三五番四の土地面積の六二四分の3566.4に相当する)が旧々八三五番四の土地として永田武の単独所有名義に登記されたことがそれぞれ認められる。
右分割の際、旧々八三五番四の土地に相当する部分について、その一部は石田克夫に、残部は永田武にと、債務者主張のように分割が行われたことについては疎明が不充分である。また、共有者の持分は、相均しいものと法律上推定されるのであるが、古川さくが、当初の八三五番四の土地の分割により右土地の六二四分の267.6に相当する土地しか取得していないのに、右分割に際し、またはその結果に対し不服を述べた形跡は、全疎明資料によるも全く窺われない。
以上の事実によれば、昭和二三年六月二五日に石田克夫から古川さくに譲渡された当初の八三五番四の土地についての石田克夫の持分は、その全部ではなくその一部であつたと認めるのが相当であり、したがつて、右譲渡がなされて以降当初の八三五番四の土地は、永田武、石田克夫および古川さく三名の共有であつたものであり、同年八月一六日の右土地の分割がなされて以降は、旧々八三五番四の土地は、永田武と石田克夫の共有であつたものと認められる。
前示甲第一九号証の記載によると、当初の八三五番四の土地について石田克夫の持分は、登記上全部古川さくに譲渡されたようになつているが、これは真実の実体関係とは符合していないものと認められるので前段の認定を覆すには足りない。他に前段の認定を左右すべき証拠はない。
(2) 本件通行地役権設定契約の締結された昭和二六年一〇月二五日当時までには旧々八三五番四の土地の分割が行われ、現在の乙地にあたる部分が石田克夫の単独所有となり、永田武が該部分についてその持分権を失い全くの無権利者になつていたことについての疎明は充分でない。のみならず、かりに、右契約締結当時までに旧々八三五番四の土地について債務者主張のとおりの分割が行われていたとしても、これについて右の当時までに登記を経由していたことについては、債務者のなんら主張立証しないところであるから、右分割によつて永田武が旧々八三五番四の土地のうち現在の乙地にあたる部分についてその持分権を失い全くの無権利者になつていたと認めることはできない。
それ故債務者の抗弁(一)は、失当である。
2 抗弁(二)について
(1) 前認定の事実によれば、本件通行地役権設定契約締結の当時、旧々八三五番四の土地は、永田武と石田克夫の共有であつたものであるが、土地の共有者は他の共有者全員の同意を得ない限り、共有物について、通行地役権その他の共有者全員の負担となるような用益権を設定することはできず、若しこれに反してかかる用益権を設定する契約を締結したときは該契約は全面的に(該契約を締結した共有者についても)無効であると解するのが相当であり、また、土地の共有者は、たとえその持分についての登記を経由していなくとも、特段の事情のない限りは、他の共有者と共有物についての取引関係に立つた第三者に対して自分が持分権を有すること、すなわち共有者たることを主張できるものと解するのが相当であるから、若し永田武が本件通行地役権設定契約を締結するにあたり、石田克夫の法定代理人である債務者の同意を得なかつたとすれば、右特段の事情の認められない限りは、右契約は無効のものといわなければならない。
(2) 再抗弁(一)の1について
本件通行地役権設定契約締結につき、永田武が石田克夫の法定代理人であつた債務者の同意を得たことについては、なんら疎明資料がない。
よつて、債権者の再抗弁(一)の1は、失当である。
(3) 再抗弁(一)の2について
本件通行地役権設定契約締結当時旧々八三五番四の土地が永田武の単独所有名義で登記されていたことは当事者間に争いがなく、債務者本人尋問の結果によれば、石田克夫の法定代理人であつた債務者は当初からこの事実を知り、これを明示または黙示に承認していたことが認められる。他方前示甲第一九、第二〇号証の各記載によれば、旧々八三五番五の土地についての古川さく所有名義の登記と、旧々八三五番四の土地についての永田武所有名義の登記とは、同一登記所で同日同じ機会に(登記所の登記受付番号が接着している)その手続がなされたものと認められるところ、証人石田波子、債権者本人の各供述および弁論の全趣旨によれば、債権者を代理して永田武との間に本件通行地役権設定契約を締結した古川泰章は、前記古川さくの夫であるとともに、永田武の伯父にあたる者であることが認められるので、古川泰章は、債権者を代理して右契約を締結するに際し、旧々八三五番四の土地が永田武の単独所有名義に登記されていることを知つていたものと推認されるとともに、永田武が右土地の単独の所有者であると信じて、右契約を締結したものと推認される。
右のとおりとすると、石田克夫は、本件通行地役権設定契約が締結された当時、たとえ旧々八三五番四の土地の共有者であつたとしても、民法第九四条第二項の類推適用により、善意の第三者にあたる債権者に対し、これを主張することはできない関係にあつたものといわなければならない。
よつて債権者の再抗弁(一)の2は理由がある。
(4) 以上のとおりなので、永田武は旧々八三五番四の土地の共有者の一人に過ぎなかつたから、同人には本件通行地役権設定契約締結の権限がなかつたということはできない。
よつて、本件通行地役権設定契約が無効であるとの債務者の抗弁(二)は、失当である。
3 抗弁(三)について
(1)ⅰ 当初の八三五番四の土地が昭和二三年八月一六日に分割されたとき、これによつて生じた旧々八三五番四の土地を永田武と石田克夫との間で債務者主張のように、すなわち現在の乙地にあたる部分を石田克夫の、その余を永田武の各所有となるように分割したことについての疎明は不充分であり、旧々八三五番四の土地が昭和二三年八月一六日以降永田武と石田克夫の共有であつたことは前判示のとおりである。右の事実と債務者本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、債務者は、昭和二八年に疎開先の福島県から帰京し旧々八三五番四の土地の一角に居を構えることにした際、石田克夫の法定代理人として永田武との間で、旧々八三五番四の土地の分割を行ない、現在の乙地に相当する部分を石田克夫の、旧八三五番四の土地に相当する部分を永田武の、各単独所有としたものであることが認められる。右の事実に成立に争いのない甲第七号証の記載、債権者本人尋問の結果および弁論の全趣旨を総合すると、債務者は、昭和三七年一一月二五日に当時既に成年になつていた石田克夫からその所有の乙地の贈与を受けたものと認められる。乙地が右同日旧々八三五番四の土地から分筆されたことは前判示のとおりであり、前示甲第七号証の記載によると、乙地については、登記簿上永田武から同日債務者に贈与されたことを原因として所有権移転登記がなされたことが認められるが、これは前判示の事実からすれば、石田克夫所有名義の中間登記をするのを省略してなされたものと考えられるから、右認定の妨げとはならない。ほかに右認定に反するような証拠はない。
ⅱ 債権者は、債務者は債権者が乙地のうち乙'部分につき通行地役権を有することについて背信的悪意をもつて乙地を取得したものであると主張するが、当初の八三五番四の土地が永田武と債務者の亡夫石田淳道との共有であつたときから、債務者が乙地の所有権を取得するに至るまでの経緯が前判示のとおりであること、<証拠>によつて認められる次の事実、すなわち債権者が昭和二六年一〇月古川さくから旧八三五番五の土地を買受け、同年一二月ころ債権者の妻石田波子が右土地のうち現在の戊地上に居宅一棟を建築して以降債権者およびその家族の者は、乙'部分を含む本件私道部分を右居宅裏手から公道に出る通路として使用していたものであり、石田波子が昭和三〇年五月ころ右居宅を増築してその一部をアパートとして他に賃貸するようになつてからは、殊に昭和三五年一二月ころ丙地上に新らたに居宅一棟を建築して、戊地上の右建物を全部アパートとして他に賃貸するようになつてからは、右アパート居住者の一部の者も乙'部分を含む本件私道部分を公道に出る通路として使用していたもののところ、債務者は昭和二八年八月ころ、疎開先の福島県から帰京し、現在の乙地にあたる場所に建物を建てこれに居住するようになつた(この点は当事者間に争いがない)とき以降、昭和四六年一〇月六日内容証明郵便をもつて債権者に対して乙'部分の通行を拒絶する旨の通告をした(この点も当事者間に争いがない)、ときまでの間、債権者およびその家族ならびに債権者方アパート居住者が前述のとおり乙'部分を通行の用に供している事実を知りながら、乙地所有者石田克夫の法定代理人としても、また、乙地所有者本人としても、債権者に対し、右の事実につきなんら異議を述べたことはなく、暗々裡にこれを認容していたことからすれば、債務者の乙地所有権取得が債権者が主張するような背信的悪意をもつてなされたものとは到底認め難く、債権者の前記主張は採り得ない。
ⅲ 右のとおりとすると、債務者は、債権者のための本件通行地役権設定登記の欠缺を主張するについて正当の利益を有する第三者にあたるものと一応はいわなければならない。
(2) 再抗弁(二)について
ⅰ 前示甲第一五号証、債務者本人尋問の結果により債務者主張のとおりの測量図であることが認められる乙第一号証の各記載および債権者本人尋問の結果によると、本件私道部分は、少くとも昭和二二年四月以前から私道として開設されていたものであつて債権者が旧八三五番五の土地の所有者となつた以前から、付近の居住者がこれを公道に通ずる通路として通行の用に供していたことが認められ、債権者が旧八三五番五の土地の所有者となつた昭和二六年一二月ころ以降は、債権者およびその家族ならびに債権者方アパートの居住者も乙'部分を含む本件私道部分を公道に出るための通路として通行の用に供していたことは、前認定のとおりである。しかし、<証拠>を総合すると、戊地の南側は公道に接しており、また戊地内には通路が設けられていて、債権者およびその家族ならびに債権者方アパート居住者の大部分の者は、その居宅ないし居室から公道に出る場合右の通路ないし公道を使用するのが普通であつて、本件私道部分を通つて公道に出ることは頻繁ではなく、ただ右アパート居住者の一世帯だけが居室の位置その他の関係で本件私道部分を通行して公道に出ることにしているに過ぎないことが認められるので債務者は債権者に乙'部分の通行を容認してもそれほど迷感を被るものとは考えられない。
ⅱ 債務者が昭和二八年八月ころ、疎開先の福島県から帰京して、乙地上に建物を建て、石田克夫その他の家族とともにここに居住するようになつて以降、昭和四六年一〇月六日内容証明郵便で債権者に対して乙'部分の通行を拒絶する旨の通告をしたときまでに、一八年余の長きに亘り、債権者、その家族および債権者方のアパートの居住者の一部の者が乙'部分を通行しているのを知りながら、乙地所有者石田克夫の法定代理人としても、乙地所有者本人としても、これに対しなんら異議を述べず、暗々裡にこれを容認していたものであることは、既に認定したとおりであるが、債権者本人の供述によれば、債務者は、昭和三五年一二月ころ債権者から永田武作成名義の前記承諾書(甲第一五号証)を見せられ、これについて説明を受けたことがあり、少くともそのころ以降は、永田武が昭和二六年一〇月二五日付で債権者に対し、本件私道部分を通行するのを承諾した事実のあることを知つていたものと認められる。
ⅲ <証拠>によれば、昭和二八年一月二二日に債権者から丁地を買受け、同年九月ころからそこに居住している金森幸夫と、甲地のうち乙地の東側部分を永田武の相続人永田フヂイほか三名から賃借している宮田幸吉の両名は、債務者の承諾のもとに、本件私道部分中の乙'部分を通行の用に供していること、宮田幸吉はその対価として毎月坪当り一〇〇円の割合の通行料を債務者に支払つていること、右両名の居住地は乙'部分を含む本件私道部分のほかに公道に出入りする通路を有しないので、債務者が、かりに債権者に乙'部分の通行をさせないことにしても、債務者は乙'部分を通路として存置せざるを得ないことがそれぞれ認められる。
ⅳ(ⅰ) 債務者は、債権者所有の戊地の南側は公道に接しており、また戊地内には通路が設けられていて債権者は本件私道部分を通行しなくとも戊地および丙地から公道に出られるから、日常生活上も、右各土地上に建物を増築するためにも本件私道部分を使用する必要はないと主張する。戊地の南側は公道に接していること、戊地内に通路が設けられていて債権者は本件私道部分を通行しなくても戊地および丙地から公道に出られること、債権者およびその家族ならびに債権者方アパートの居住者の大部分の者が、公道に出る場合普通は、戊地内通路を通つて戊地南側の公道に出ていることは、既に認定のとおりであるが、証人松林宣、債権者本人の各供述によれば、債権者およびその家族ならびに債権者方アパートの居住者の一部の者は、長年通行し慣れてきた本件私道部分を若し通行できないことになると、日常生活上かなりの不便を甘受せざるを得なくなり、また債権者方で丙地および戊地上の建物の増築をする場合、殊に丙地上の建物の増築をする場合は、それに因つて相当の支障をきたすものと認められるので、右主張は、未だ採るを得ない。
(ⅱ) また債務者は債権者に対して乙'部分の通行を容認すると外部の者がたやすく乙'部分に立入ることが可能となり、その結果債務者および甲地内の居住者らが盗難や火災にあう危険が増大すると主張するが、債権者に乙'部分の通行を容認することにより右主張のような危険が増大することについての疎明はない。
(ⅲ) さらに、債務者は、債権者に対して乙'部分の通行を容認すると、債務者が近い将来に行なおうと計画している乙地上の建物の増改築の際、乙'部分を建物敷地として利用できなくなると主張するが、たとえ債権者の乙'部分の通行を拒絶したとしてもⅢで判示のような事情がある以上、債務者は乙地上の建物増改築の際、乙'部分を建物敷地として利用することはできない状態にあり、したがつて右主張も採ることができない。
ⅴ 債務者が昭和四六年一〇月六日に突如として内容証明郵便で債権者に対して乙'部分の通行を拒絶する旨通告した真意がなへんにあるか必ずしも明らかではないが、債権者から長年の間乙'部分の通行についての対価を支払つてもらつていないことについてのしこりが一つの誘因となつたのではないかと思われる。しかし債権者本人の供述によると、債権者は、昭和二六年一〇月二五日に旧八三五番五の土地を古川さくから買受けるとともに永田武から本件通行地役権の設定を受けたとき、右土地の売買においては古川さくの代理人であり、本件通行地役権設定契約締結においては債権者の代理人であつた古川泰章(古川さくの夫)から、旧八三五番五の土地の売買代金は坪当り二、〇〇〇円だが、本件私道部分の通行料として永田武に坪当り二〇〇円を支払うから右売買代金を坪当り二、二〇〇円にしてくれと云われ、これを承諾してこの代金を古川泰章に支払つたことが認められる。これによれば、永田武は、本件通行地役権設定契約締結に際し、古川泰章から少くとも、本件私道部分の坪数に二〇〇円を乗じた金額の通行料を一時金として支払を受けたものと推認され、右金員は、実質的には債権者が本件私道部分の通行地役権を取得する対価として出捐したものと考えられるから、債権者は、実質的には本件通行地役権を有償で取得したものということができる。
以上ⅰないしⅴに認定の事実および全疎明資料によつて認められる本件諸般の事情によれば、債務者は債権者のための本件通行地役権設定登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者であると債務者が主張することは、信義則に反するものというべきであつて、許されないものといわなければならず、再抗弁(二)は理由がある。
(3) したがつて抗弁(三)は、結局において失当である。
(五) 以上のとおりとすると、債権者は、丙地および戊地を要役地とし、乙地のうち、乙'部分を承役地とする通行地役権を有することについて疎明があるものといわなければならない。
二保全の必要性の有無について
債権者の妻石田波子が昭和四六年九月丙地および戊地の各土地上の各建物の増築を計画し、その建築確認を得たところ、昭和四六年一〇月六日債務者が債権者に対し内容証明郵便で乙'部分の通行を拒絶する旨通告したことは当事者間に争いがない。ところで、債権者が本件通行地役権設定契約締結したころ以降現在に至るまで本件私道部分を通行の用に供してきたことは前認定のとおりであるが、若し債権者が、債務者から本件私道部分のうち乙'部分の通行を拒絶されこれを通行できないことになるとすれば、債権者およびその家族ならびに債権者方アパート居住者の一部の者が日常生活上多大の不便を甘受させるを得なくなり、また、債権者方の右計画中の丙地および戊地上の建物の増築は、それによつて相当の支障をきたすであろうことは、既に判示したところ(一の(四)の3の(2)のⅳの(ⅰ)の判示)によつて明らかである。
保全の必要性についての積極否認としての債務者の主張(申請の理由に対する答弁(二)後段の主張)については、一の(四)の3の(2)のⅳに判示のとおりであつて、いずれも採用できない。
よつて、債権者主張の保全の必要性も認められる。
三申請の理由(三)(本件仮処分決定)の事実は、本件記録上明らかである。
四結論
以上のとおりであつて、債権者の本件仮処分申請は理由があるので本件仮処分決定は、これをそのまま認可することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(宮崎富哉 山口久夫 中条秀雄)